音色の変化によって得られる力は計り知れないほどのものがあります。音色は音楽を構成する最も大切な要素のひとつとして統一と対照にも貢献しています。
音は空気中を振動して、脳内の聴覚野に伝わります。音の高低や、強弱、音色などを識別し、様々な経験と結びついて音響の空間をイメージするので、そのことを利用して統一的な音響空間を作出したり、それと対照的な空間を配置したりします。音色が果たす役割はとても大きいのです。
管楽器や弦楽器では、奏法を変えることによって様々な音色の変更が出来ます。それに対してピアノ演奏では、より積極的に音色を作り出す必要があるのです。デュナーミクやアーティキュレーションの指示が、音色の変更を要求していると考えてみると、音色作りの取り組みが深まると思います。
「貴婦人の乗馬」は、様々な場面が描かれたこの曲集の締めくくりに相応しい作品です。
最初から16小節間で、A{4(a)+4(a')}+A' {4(b)+4(a')}の二部形式に相当する部分があります。続いて中間大楽節Bと再現Aが置かれています。最後に華やかなコーダもある複合三部形式の曲です。Bは下属調に転調して音色も変化し、大きく対照しています。そして、Bの終止にあたるt.24の音型fはt.9の音型fを使い、全体の統一に配慮しています(Exs.25)。
大規模で多彩な音響を感じさせるこの作品は、オーケストラの指揮者になったように弾いて下さい。そうすると、音色が統一と対照に大きく貢献していることを実感します。ピアノで演奏するときは一層、音色を意識した表現を心がけると、音楽が輝いてリアリティが伝わります。
さあ、感覚を総動員してオーケストラで響く音楽を想像しましょう。マーチのテンポで開始される冒頭楽節の (a) は、ピッチカートを含む弦楽器に木管楽器が加わった音色で軽快に、(b) は、弦楽器のユニゾンで三連符を力強く、続いて金管楽器が対比しています。
B では、一転して草原の緑が基調色です。弦楽器のロングトーンで背景を作って、その上にオーボエがなだらかな旋律を奏で、ピッコロが応唱します。後楽節はクラリネットが旋律を奏で、最後はテュッティで締め括り、Aを再現します。
コーダでは、弱奏の弦から始まりクレッシェンドしてテュッティ、を繰り返しながら次第に大波になっていく様子を描くように高音と低音楽器とが互い違いに奏楽します。最後の3小節は、ティンパニーのロールに乗って、華やかに幕を閉じます。
このイメージを実際にオーケストレーションしました。サンプリング音源を用いてコンピュータで自動演奏したものをユーチューブにアップロードしています。