遠近法とは、平面上で遠近感を持たせることですが、音楽では主に音の強弱を操り、音型やモティーフと一緒に働いて距離感・奥行きを表現する重要な技法です。
本来、遠くから聞こえる音は弱く、近づくにつれて強くなりますから、そのまま遠近を表現できます。音の強弱を「総奏対独奏」や、「問いと答え」のような対の効果を期待して使用する場合もありますから、文脈から判断する必要があります。
チャイコフスキー作曲「こどもためのアルバム」の「カマリンスカヤ」では、曲全体を計画する主要素として遠近法が用いられています。
「狩り」は、導入とコーダを持つロンド形式(Intro.+A+B+A+C+A+Coda)の曲です。とても描写的で動的な音楽です。この曲では、遠近法を含め様々な工夫でスクリーンに狩りの様子をリアルに映し出します。
導入(t.1〜4)は角笛隊の奏楽で幕を開けます。弱奏から一気にクレッシェンドします。この物語の舞台の広がりをカメラで写しだし、一気に角笛隊にズームアップしているようです。
ロンド主題Aの右手音型(f)は馬が疾走する擬音のように、曲全体に響いています。
コーダ(t.45から)では(Exs.09参照)、導入のフレーズが大楽節に発展し、音型fの省略形が尾部(t.48,52)に付けられています。
最後の4小節は、遠ざかってく一群を強弱の詳細な指示と、省略や反復を用いて丁寧に描いています。前奏とコーダ前半の準備があってこその効果です。
最後はラレンタンドして第3音の「ミ」で終止します。不十分な終止感も奥行きや余韻を与えています。
この曲はスクリーンの観客目線で描かれているようです。奥行きある舞台のあちこちで、狩りをする人たち、獲物を追い詰める犬や、奏楽する人々の喧噪があり、最後には登場するすべてが去っていった後の静けさが表現できると、演奏は成功といえるでしょう。