エフ音楽教室

「ブルグミュラー25の練習曲」の表現 楽曲分析と演奏表現

 

2. 反復とゼクエンツ
  「アラベスク」

反復は、フレーズ等を繰り返すことです。「それからどうした、それからどうした」と繰り返せば、呪文のような効果も得られます。

ゼクエンツは、反復進行と訳されています。フレーズ等を違う音高で繰り返す技法です。

 

「アラベスク」は、アインガング+主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節A+コーダの三部形式です。

アインガングとは

アインガング(eingang)とは、ドイツ語の入り口のことで、音楽用語で使う場合は楽曲の主要部に入るための「前置き」のような意味です。曲中で、一時停止した後、次の楽節を導くための即興的なパッセージにもこの単語が使われます。ワルツの主旋律に入る合図のような「ブン、チャッチャ、ブン、チャッチャ」もアインガングです。「アラベスク」の冒頭2小節は、主要大楽節(A)を導く号令の様なものですから、ワルツのアインガングに近いと思います。

楽曲本体の前に置かれた「前置き」には、アインガングのほかにも様々な用語が使われます。前奏、導入(イントロダクション)、序——等々。いずれも微妙に違いはありますが、厳密に区別されてはいませんから、文言で考え込むのは止めましょう。
ただし、アインガングや前奏は、家の中に入るために玄関ドアを開ける所まで。序は、塀に囲まれた一角にある門を開けて敷地の中に入り、長いアプローチを通って母屋玄関の扉を開けるところまで、のようなニュアンスの違いはあるでしょう。

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「アラベスク」の中間大楽節(Exs.02)に使われている反復に着目します。
t.11〜12を反復してt.13〜14に進み、t.15〜16で、4度高く転調して反復します。ゼクエンツと考えてよいです。4度上がることで、反復の効果が強調されます。
ゼクエンツは、6番「進歩」に明瞭な形で出てきます。

アラベスク

広がりある跳躍進行は膝を曲げて飛び上がる前の姿勢を意識、結果は事前の準備によって決まる

表現のポイントは、右手旋律のt.14の最後の音「ラ」です(Exs.02の丸囲みの音)。

t.11から14にかけて足踏みしエネルギーを蓄えたあと、t.14の「ラ」で、次の音、中間大楽節の最高音「ラ」をめがけて跳躍します。高く上がる跳躍を確実にするためには、人が飛び上がる前の姿勢をイメージして下さい。飛び上がる前は、膝を曲げますね。一度下向きに動き、バネの力で目的地点に向かって飛び上がります。この運動を意識してt.14の「ラ」がうまく弾けたら、t.15の「ラ」への跳躍が美しい円弧を描き、後は滑り下るように綺麗なシェイプを描きながら演奏できますよ。t.15の「ラ」にアクセントがありますが、強調するより、浮揚感のある響きが欲しいです。
旋律の曲線は、人の動きに似ていますね。

ここで気をつけるべきことは、跳躍したt.15の音に注意が集中し、その前の重要な動作が無自覚になりがち、ということです。右手旋律のt.14の最後の音「ラ」を意識するだけで、とても良いパフォーマンスが得られますよ。大きな動作は必要ありません。大抵の事柄と同様、見える結果は事前の準備によって決まるのですから。

音楽は時間芸術ですから、場合によっては時間に追われることもあります。譜例丸囲みの「ラ」の音のような、小節線を飛び越える所は一番不安定な箇所ですから、弾いた音の確認作業をする間なく、次の小節の準備に入る、ようなことが起こります。人は無意識で運動することがあるので、このような難しい部分では、脳との連携を充分に行い、イメージ通りに演奏できるまで練習しましょう。

ピアノ演奏では、常に脳が指を制御している

人がピアノを弾くとき、脳が指示して指の制御(体全体の動きを伴って)をしているはずです。「脳からの指示を受けて弾く——弾いた音を聞いて検証する」のサイクルを確実に出来る速度で始め、脳の働きを認知することです。
弾き間違いを頻繁にするのは、指示を待てないで指の形が整わない前に、時間に追われて打鍵することが原因の場合もあります。「脳の指示で指を動かす」ことを意識して練習していると、次第に活性化し、さらに高速で確実に処理できるようになります。

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▼INDEX

01. 素直な心

02. アラベスク

03. 牧歌

04. 子供の集会

05. 無邪気

06. 進歩

07. 清い流れ

08. 優美

09. 狩り

10. やさしい花

11. せきれい

12. 別れ

13. なぐさめ

14. スティリアの女

15. バラード

16. 小さな嘆き

17. おしゃべり

18. 心配

19. アベ・マリア

20. タランテラ

21. 天使の声

22. 舟歌

23. 帰途

24. つばめ

25. 貴婦人の乗馬