反復は、フレーズ等を繰り返すことです。「それからどうした、それからどうした」と繰り返せば、呪文のような効果も得られます。
ゼクエンツは、反復進行と訳されています。フレーズ等を違う音高で繰り返す技法です。
「アラベスク」は、アインガング+主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節A+コーダの三部形式です。
アインガング(eingang)とは、ドイツ語の入り口のことで、音楽用語で使う場合は楽曲の主要部に入るための「前置き」のような意味です。曲中で、一時停止した後、次の楽節を導くための即興的なパッセージにもこの単語が使われます。ワルツの主旋律に入る合図のような「ブン、チャッチャ、ブン、チャッチャ」もアインガングです。「アラベスク」の冒頭2小節は、主要大楽節(A)を導く号令の様なものですから、ワルツのアインガングに近いと思います。
楽曲本体の前に置かれた「前置き」には、アインガングのほかにも様々な用語が使われます。前奏、導入(イントロダクション)、序——等々。いずれも微妙に違いはありますが、厳密に区別されてはいませんから、文言で考え込むのは止めましょう。
ただし、アインガングや前奏は、家の中に入るために玄関ドアを開ける所まで。序は、塀に囲まれた一角にある門を開けて敷地の中に入り、長いアプローチを通って母屋玄関の扉を開けるところまで、のようなニュアンスの違いはあるでしょう。
「アラベスク」の中間大楽節(Exs.02)に使われている反復に着目します。
t.11〜12を反復してt.13〜14に進み、t.15〜16で、4度高く転調して反復します。ゼクエンツと考えてよいです。4度上がることで、反復の効果が強調されます。
ゼクエンツは、6番「進歩」に明瞭な形で出てきます。
表現のポイントは、右手旋律のt.14の最後の音「ラ」です(Exs.02の丸囲みの音)。
t.11から14にかけて足踏みしエネルギーを蓄えたあと、t.14の「ラ」で、次の音、中間大楽節の最高音「ラ」をめがけて跳躍します。高く上がる跳躍を確実にするためには、人が飛び上がる前の姿勢をイメージして下さい。飛び上がる前は、膝を曲げますね。一度下向きに動き、バネの力で目的地点に向かって飛び上がります。この運動を意識してt.14の「ラ」がうまく弾けたら、t.15の「ラ」への跳躍が美しい円弧を描き、後は滑り下るように綺麗なシェイプを描きながら演奏できますよ。t.15の「ラ」にアクセントがありますが、強調するより、浮揚感のある響きが欲しいです。
旋律の曲線は、人の動きに似ていますね。
ここで気をつけるべきことは、跳躍したt.15の音に注意が集中し、その前の重要な動作が無自覚になりがち、ということです。右手旋律のt.14の最後の音「ラ」を意識するだけで、とても良いパフォーマンスが得られますよ。大きな動作は必要ありません。大抵の事柄と同様、見える結果は事前の準備によって決まるのですから。
音楽は時間芸術ですから、場合によっては時間に追われることもあります。譜例丸囲みの「ラ」の音のような、小節線を飛び越える所は一番不安定な箇所ですから、弾いた音の確認作業をする間なく、次の小節の準備に入る、ようなことが起こります。人は無意識で運動することがあるので、このような難しい部分では、脳との連携を充分に行い、イメージ通りに演奏できるまで練習しましょう。
人がピアノを弾くとき、脳が指示して指の制御(体全体の動きを伴って)をしているはずです。「脳からの指示を受けて弾く——弾いた音を聞いて検証する」のサイクルを確実に出来る速度で始め、脳の働きを認知することです。
弾き間違いを頻繁にするのは、指示を待てないで指の形が整わない前に、時間に追われて打鍵することが原因の場合もあります。「脳の指示で指を動かす」ことを意識して練習していると、次第に活性化し、さらに高速で確実に処理できるようになります。