音楽における統一と対照は、作曲家にとって最重要事項のひとつですから、演奏者の側からは、どのように統一と対照が図られているか観察することが作品の理解に繋がります。そして、統一の図られ方は内的な繋がりによることが多く、二部形式ではその傾向が強いので「いかに統一が図られているか」認識することが困難なこともあります。
三部形式では主要大楽節が中間大楽節を挟んでいるので、例えて言えばサンドイッチの中に詰める具材が如何様なものでも、そこそこ味の渾然一体感が保証されます。それに対して二部形式は、パンの上に具を乗せて食べる方式ですから、作る側にとっても微妙な加減が求められる、ということです。
二部形式の、二つの大楽節の繋がり方としては、A+A' とかA+Bが考えられますが、ここで付けられたA'とBの、記号選択の違いなどに気を取られていては先に進めません。
大切なことは、大楽節Bは、たいていの場合、主要大楽節Aに対照して配置されますから、対照は分かりやすいのです。が、何が全体の統一に寄与しているかを感得することが作品理解に繋がる、そして、大楽節Bの中に、ほんの僅かでもAの気配を感じさせるフレーズなり、アイテムがあれば、全体を貫く統一感が生まれる、ということです。
「無邪気」は、大楽節A+大楽節Bの二部形式です。A,B 二つの大楽節間の統一と対照について見ます。
大楽節B (Exs.05)の最初の4小節は主要大楽節Aの対照として書かれています。Bのt.9〜10を(右手旋律だけ)オクターブ高くt.11〜12で反復します。木霊(こだま—精霊の返事)のように呼びかけた声が跳ね返って聞こえる様子を表しています。このように音域を変えて反復するものをエコーと呼ぶこともあります。
t.13からのB後楽節の役割は、主要大楽節Aとt.9〜12までの対照を相和して全体を締めくくることです。t.15はt.3の音型と対応して統一が図られ、安定した一体感があります。
つまり二部形式の大楽節Bには、対照する部分と、徐々に主要大楽節Aの楽想に帰結する部分が含まれているのですね。
ところで、t.11からのエコーはクレッシェンドしてt.13で頂点を作るようになっています。t.11からのエコーのフレーズは、音域が高くなっていくに従って、音量を増大させにくくなります。かといって、左手の伴奏形はt.9からt.13にかけて同じ位置に止まっているので、こちらもクレッシェンドすれば左右のバランスが崩れそうです。楽譜に書かれている内容をよく検討する必要がありそうです。
この部分を詳細に見ます。
t.9〜10の音型は上行していますから、この2小節で僅かに音の強さが増していくかもしれませんが、t.11からエコー表現のためにt.11の開始はt.9と同一レヴェル以下の音勢に一旦戻して弾き始めましょう。そして、クレッシェンドはt.13のフォルテに向かって効果的に行いましょう。
以上のことをまとめれば次のようになります。
t.11からのクレッシェンドとフォルテの指示を、レジェーロからブリランテへ、と感覚変換してアプローチすれば、t.13で輝きと豊かな音勢の頂点が描けます。力む必要はありません。その結果、その後の推移は自然に運ぶことができ、最後の和音の着地が心地よいものになるでしょう。