ピアニズムは作曲技法の用語ではありませんが、楽器の特性を発揮できる音型やフレーズを含む楽想を創造し仕上げた作品に対して「優れたピアニズム」という言い方をします。ピアノ曲を書いてみようと思ったら、まずピアノで出来ること、つまり書法の可能性と楽器固有の性格・特性等を検討します。
ショパン作曲「練習曲Op.10-1」は、親指をくぐらせることなくオクターブ以上のアルペジオをハイスピードで演奏できるよう工夫した画期的作品で、ピアニズムを未来に拓いたと賞賛されています。
演奏する立場から作曲家のピアニズムを考えるとき、例えば当該の「つばめ」の楽想を他の楽器で演奏するには、と考えてみることは意味あることです。弦楽四重奏ではどうでしょう。バスと旋律はチェロと第1ヴァイオリンのピッチカートで、内声の16分音符のアルペジオはヴィオラと第2ヴァイオリンが協働して弾きやすいように音型を工夫する——のように計画が次々に浮かんできませんか。そのようなことを想像した後ピアノで演奏してみると、改めてピアノが持っている表現力はすごい、と感じるでしょう。
さて、「つばめ」は、右手の内声アルペジオを包み込むように左手が交差してバスと旋律を受け持っています。つまり、バスと旋律は、キャッチボールのように出来ているからこの方法が達成できるのですね。それによって、バスと旋律が呼応して運動している様子が描ける、というピアニズムなのですね(Exs.24は大楽節A)。
曲は、大楽節Aと終止が延長され14小節になった大楽節Bの二部形式です。Bの前半4小節(繰り返しをカウントしないでt.9〜12)は、つばめが羽を休めているような静止感がありますが、ロ短調(上属調の平行調)に転調することで存在感が大きく膨らんでいます。そこで、調の復帰と安定を得るために大楽節Bの終止を延長し、主調を確かなものにしているのですね。