音型とは、ひとまとまりと認識できる音群のことを言います。動機または部分動機も、時には音型という単語が使われます。文脈の中で様々な意味で用いられます。
ひとつ又は複数の音型を組み合わせて作られた、性格を持った音楽の最小単位を動機(モティーフ)と呼びます。動機は、基本的には2小節で出来ています。
動機を音楽の文法のようなものに従って積み重ねていくと、ワン・センテンスに相当する、まとまりの感じられる音楽が完成します。これを大楽節と言い、1つの大楽節で出来た曲を一部形式の曲と呼びます。
「素直な心」は、大楽節A+大楽節B+コーダ(Coda)の二部形式です。
コーダは、主要な楽句が閉じた後に置かれる結尾のことです。
冒頭4音(Exs.01-1の 音型f )は「性格を持つ」までには至りませんが、その後の旋律の推移からこの曲の中心となる音型であると判断出来ます。
大楽節はモティーフの構築で作られるとは限らず、この曲のようにひとつの音型を中心にして自由に旋律が作られ大楽節としてのまとまりが形成されるものや、様々な音型や動機によってひとつのテーマ性を持った大楽節になるものまで多様です。
大楽節Aの最初から7小節間は、下行する音型fと、その変化型が使われています。なだらかな下行音型は「素直な」心情を表現しています。8小節目の段落終わりで、音型fの反行形が現れます。これは、大楽節Bで展開される、揺さぶられる心情の前触れですね。
大楽節Bのt.9からは、左手のfの反行形が不安な感情を表し、終止に向かって大きなうねりを伴い、不安感を沈め平穏を取り戻そうとする様に、t.16の主音を目指します。 大楽節Bのt.9から、繰り返しを省いて示します(Exs.01-2)。
コーダは少し込み入った構造になっています。
楽譜上部(Exs.01-2)に記した番号は楽節の開始からの小節数を示します。Bはt.16までですが、同じ16小節目からコーダが開始されています。つまり、Bの終わりの音とコーダの始まりの音が重なっているのです(詳細参照)。t.15〜16の各記号、つまりリテヌートとア・テンポ、t.16のクレッシェンドなどはBからコーダに切れ目なく流入することを求めた指示です。
コーダはアーメン終止を2度行います。
コーダが全体で7小節しかないのは、最後に全休符の小節が続くべきものを省略したためです。
ところで、t.16の丸で囲んだ「ド」の音は、大楽節Bが閉じることをドルチェで表現しなくてはなりませんし、同時にt.16から元のテンポに戻り、これから「アーメン」とお祈りしてから、眠りにつくことも表さなくてはなりません。ふたつのことを同時に行うことは、現実世界でもよくありますね。t. 16でそのことを要求されます。
最後に現れる上行する音型(t.20 fの反行形)は「眠りにつく前の意識のまどろみ」のように演奏できると、チャーミングで動きのある音楽になりすよ。
フレーズの関係を解りやすく表現するために、t.14から終わりまでの記譜の仕方を変えてみました(Exs.01-3)。
フレーズの関係が似ている作品として、クーラウのソナチネ作品36-1の第1楽章の提示部があります。