「やさしい花」は、主要大楽節 A + 中間大楽節 B + 主要大楽節 A の三部形式です。主に2声部書法で書かれています。
対位法の模倣法を念頭に作曲し、声部間の親密なやり取りを表現することが目的のように思われます。右手の旋律に対して、左手声部は相づちを打ったり、同じ言葉をまねて繰り返しながら進んでいきます。左手声部はとても繊細に見え隠れしつつ模倣しているので、右手旋律のどの音型に反応しているかを見定めることも必要です。
模倣は、ピアノの右手声部と左手声部が旋律と伴奏だけの関係でなく、積極的に対話を推進していく「良い聞き手」になることに役立ちます。この曲のもつ「親密な関係」が的確に表現できるよう、左手声部にも充分に気持ちを込めた演奏を心がけましょう。
なお、中間大楽節 B(t.9〜)からの左手声部は、冒頭の音型fが伴奏形として用いられ、対照部分Bにおける全体統一のために寄与しています。中間大楽節Bの右手声部を思い切り伸びやかに演奏しても、Aとの不調和は起きませんから、気持ちを切り替えて、この和声的に推移する部分を柔らかく豊かな響きで満たすよう演奏して下さい(Exs.10-1)。
t.13の装飾音符をエレガントに弾くことは難しいです。実際の演奏を楽譜に書くと解りやすいですよ(Exs.10-2 a)。そして倍の音価で練習しましょう(Exs.10-2 b)。この場合、装飾音がついている音符は経過音(当該音自体が非和声音)なので、この装飾音を入れる場所は前の音符の音価から拝借しました。