保続音と言えば、パイプオルガンの足鍵盤で最低音の主音を弾き続け、両手は普通に和声進行して、最後に主和音に達する・・・、冒頭(t.2〜3)に主音保続があるバッハ作曲「トッカータとフーガ ニ短調」が思い出されます。決定的主音優位の上に減七の和音が置かれ、主音と導音が短2度で同時に鳴る不協和の快感と、それが主和音に溶解する様相は、一度聴けば頭から離れないインパクトです。主音が保続された部分は、全体としてトニックの機能を持っています。本練習曲では1番「素直な心」のt.16から終わりまでが主音保続しています。主音保続は、曲の本題部分が閉じてそれ以上話題が進展しないという時、しばしば用いられます。
一方、属音が保続される、属音保続もあります。主に、中間部から再現部に向かうときに、回帰の期待を高めるため、主調の属音を保続します。中間部のすべてが属音保続している曲も多数あります。
「進歩」は、主調がハ長調で、主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節Aの三部形式です。Exs.06はその中間大楽節です。 イ短調に転調しています。
t.9からの4小節間は2度下がりのなだらかなゼクエンツで進みます。t.13からは、主要大楽節Aに帰結するための楽節です。
中間大楽節Bから主要大楽節Aに戻るとき、帰結感を高めるために属音を保続するとしたらバスは「ソ」になりますが、t.13からイ短調のままで属音「ミ」が保続されています。この例のように、長調の曲で本来属音を保続すべきところを平行調の属音で代理することを代用保続といいます。代用保続から主調に再現すると、鮮やかさ、意外性、ワープ感などの効果があります。
楽譜では、バスの「ミ」が一度途絶えているように見えますが、t.13から16まではt.13のバスの「ミ」が続いていることを意識して演奏して下さい。そうすると、Aに戻ったときは、一瞬で見慣れた場所に帰ってきた驚きを伝えられる演奏ができると思います。
代用保続の使用例として、ベートーヴェン作曲「ピアノ・ソナタ作品49-1ト長調」の第1楽章展開部から再現する場面などがあります。