楽節構造の基礎は、8小節で完結する正規構造の大楽節です。対になる偶数小節を1グループにして、2小節の最小のまとまり、4小節で小楽節、8小節で大楽節と成長します。それが、何らかの要因で、どこかが延びたり縮んだりして、4小節や8小節でない楽節になっているものを、歪んだ楽節と言います。
時として、5小節と3小節の組み合わせで大楽節を形成し、小節数は8小節だけど歪んでいる、というような場合もあります。
さて、「バラード」は主要部(ハ短調)と中間部(ハ長調)、そして主要部が再現し、コーダを加えた三部形式です。が、その推移はこの曲集の他のいずれの作品とも異なった様相をしています。
中間部までの小節数は30小節。3/8拍子で、1小節を1拍で演奏する拍感の曲なので、2小節ごとにカウントします。冒頭2小節はアインガングなので、3小節目から2小節おきに印を付けました(Esx.15-1小節線上の二重線参照)。
そうすると、主要部Aは14小節相当になりますね。二重線で区切ったものを改めて見直せば、楽句が歪んでいるだけでなく、前楽節と後楽節のありようも、他の8小節正規構造の曲のようではないですね。文章が閉じないで次に続いていく感じ、だから「バラード」なのかもしれません。
中間部も同様に観察してみましょう。t.31からt.46までの16小節は、2小節を単位とした8小節相当の大楽節です。
そのあとの t.47からt.56までの10小節間(Exs.15-2a)は中間部から再現するための橋渡し部分なので、ブリッジ・フレーズ(架橋句)と言います。このフレーズも歪んでいます。原型はこんな感じかも、と想像してみると(Exs.15-2b復元イメージ)、このフレーズのもつ推進力が改めて理解できます。
ところで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタでは、様々な所に奇数小節の楽句が見られます。あまりに自然なため見逃しがちですが、そのような箇所こそ意識して楽譜を観察すると、作者の創意工夫が改めて分かります。ベートーヴェンのソナタ形式の楽曲を勉強しているなら、展開部についてフレーズ(楽節)ごとに小節数を書き込むことを提案します。これは思いのほか難しい作業ですが演奏にとても役立ちます。もし困ってしまったらシュナーベル版を見てください。参考になります。