「タランテラ」は舞曲で、前奏+A+B+A+C+A+コーダの小ロンド形式です。AとBは8小節の正規構造の大楽節ですが、Cの大楽節(t.33〜48)は16小節あります(Exs.20-1)。拡大大楽節と呼んでいます。
AとBに比べ、副主題Cは、2小節単位で進行しています。これを分かり易くするために、譜例(Exs.20-1)の小節線の上に二重線で区切り直しました。
Cの結尾4小節は、大楽節Bの最初の4小節とリズム形がほぼ同一で、これによりAに自然に復帰します。
ところで、拡大なのか、何小節が単位になっているか、などが分かるのはどのような理由かと疑問が起きるでしょう。
小節は、安定拍(下拍)と不安定拍(上拍)で出来ています。主に2小節で構成される一対の小節間にも安定小節と不安定小節が存在します。Exs.20-1の譜例で説明すると、t.33〜34が不安定小節でt.35〜36が安定小節です。このサイクルで楽節Cは進んでいるのです。
もう少し具体的にイメージしやすいように説明しましょう。
2/4拍子で4分音符が3つ並んだ動機をイメージして下さい。|1 - 2- | 3 - - - |です。1と3は安定拍、2は不安定拍です。
この動機を唱えながら、足の上げ下ろしで前進してみて下さい。進行するには1で左足を上げたのでは間に合いませんね。厳密には動作を始めるのはその前からで、上げた足を歩幅分前進して着地した所が1です。左足着地と同時に右足が次の動作を始めます。3で左足が着地して静止します。
以上のことから、一連の動作は2小節サイクルであること、前進している間は(1は前進のために不安定な拍になっている)不安定な状態が続き、着地静止して安定するため、2つの小節の関係に不安定小節と安定小節が存在することになる、ということなどが理解できると思います。
「タランテラ」の中間大楽節は不安定小節から安定小節のサイクルが4小節である、ということです。
拡大大楽節になっているために副主題Cは演奏が難しいです。難しいもう一つの原因は、音符の尾部の8分休符にあると推察します。旋律についている休符は、流れを阻害する働きを持っている場合があり(リズムの阻止参照)、心理的にフレーズの分断を招いているかもしれません。
それらの解決のためには、t.33からt.36に向かってひとつのフレーズをイメージしましょう。さらに、t.33〜40とt.41〜48までが一対の楽節であることを充分認識し、フレーズを大きく感じ取って演奏しましょう。すると、慌ただしくなく、落ち着いた雰囲気が表現出来ます。
試みに、分かり易さを優先して大胆に記譜を変えてみました。なお、直前からの変化の関係を示すために大楽節Aの尾部から記譜しています(Exs.20-2)。これで、Cの前楽節と後楽節との対応関係が明瞭になりますね。