アウフタクト(上拍)から始まる旋律を日本語では「弱起の曲」と呼びます。1拍目から始まらない曲のことです。ドイツ語の「アウフ」は上に、という意味なので、本来は強弱を示したものではないことに注意したいです。
ゲネラルアウフタクトとは、小節全体が上拍の性質を持ち、すべてが不安定拍として機能することです。数小節に及ぶゲネラルアウフタクトもあります。
8小節におよぶゲネラルアウフタクトの例として、ベートーヴェン作曲「ピアノ・ソナタ作品13悲愴」第1楽章の展開部から再現部に向かうところを挙げておきましょう。同じベートーヴェンの「作品22変ロ長調」の第1楽章の第1主題中にアウフタクトが膨らんでゲネラルアウフタクトになった場所もあります。
「牧歌」は、主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節Aの三部形式です。
t.3 から始まる主要大楽節A(Exs.03)は8小節の正規構造で、前楽節4小節(t.3〜6)、後楽節4小節(t.7〜10)です。冒頭の2小節は、主要大楽節Aのゲネラルアウフタクトです。t.7からの後楽節に先だって置かれるアウフタクト音型(譜例のauf参照)と冒頭の音型とは同じですね。
一般的に、アウフタクト始まりの曲の小節数の数え方は、アウフタクトをカウントしません。その方が楽節の在り方が分かりやすいからです。しかし、楽節はアウフタクトの開始音から始まっているのですから、厳密には後楽節はt.6の2拍目から、ということになります。
「牧歌」のt.1〜2がゲネラルアウフタクトということは、冒頭も主要大楽節Aの一部だと解釈しているからです。ただし、繰り返しますが、構造を示す記号を置くときには、アウフタクトを含めないので主要大楽節Aはt.3から始まると記述する結果となっているのです。
ゲネラルアウフタクトの冒頭2小節が、風に揺られて遠くから聞こえてくるように、拍節を感じさせないで「たゆたゆ」と進み、主要大楽節 Aの「レ」(主和音の第5音)に乗る、そのような感じで、この2小節でのどかさが表現できれば、あとはその雰囲気のまま続けられますよ。