ソノリティとは、響きや聞こえのことをいいますが、音楽に関する文脈の中では、個性的で豊かな音色・透徹力、説得力のある弱奏などに対して「優れたソノリティ」というような使い方をします。
広い音域を持つピアノは、高域、中域、低域のそれぞれが固有のソノリティを持っており、その個性に適った音型や楽想で音楽を作ることは作曲の基本です。勿論、基本だから簡単に破られもします。
音型とソノリティを絡ませて、鳥のさえずりや、羽ばたき、旋回の様子を模した作品は「せきれい」の他にもたくさんあります。チャイコフスキー作曲「こどもためのアルバム」の「ひばりの歌」も写実的です。
「せきれい」は、導入+大楽節 A + 大楽節 B+コーダの二部形式の曲です(Exs.11は、各部冒頭の2小節)。
導入(Intro.)では、両声部が一体的に高音域に偏って融合し、切れの良い音型で開始されます。最初の2小節は、両手が対称的に動く、ピアノ演奏では比較的楽なフィギュアで書かれているので、音色を充分楽しみながら軽やかに演奏しましょう。
それに対して、コーダ(Coda)は少し微妙です。右手声部は、最高音域で乾いた旋律を弾き始めます。それを受けて左手声部は、2オクターブ以上離れた位置から模倣します。両者の間には広い空間があり、それまでのようには融合しません。
導入から大楽節AとB、コーダのそれぞれの楽節で、セキレイをイメージした特徴的音型を用い、音域を変えて配置することで得られる表情の違いを描いているのですね。ピアノが広大な音域を備えていることを巧みに使い、楽器のソノリティを生かした作品です。
音楽は幾つかの楽節が連なって出来ています。AとBのふたつの楽節が連なるとき、その接続の方法は次の3通りになります。
① Aが閉じて、その後にBが始まる。通常の接続。
② Aの終止とBの開始が同一で、重なっている場合。
③ Aの終止を待たず、Bが開始されるもの。このパターンは対位法音楽でのストレットなどに見られる特殊な接続。
このように整理してみれば②のパターンについては、慎重に確認するのがよさそうです。「せきれい」の楽節Bからコーダへの接続は②のパターンになっています。
第1番「素直な心」も②のパターンでしたね。
主要部からコーダに流入する時、繰り返しの第1括弧では完全終止し、第2括弧で②のパターンをとり切れ目なく終止に向かう曲がいくつかあります。