模倣法は、対位法音楽の中心的な技法の一つです。ですが、ここでは、あるフレーズをそっくり真似る模倣を取り上げます。模倣は、お母さんが赤ちゃんに「ママ」と呼びかけると「まま」とまねて応える仕草を思い浮かべてください。
シューマン作曲「子供の情景」の第4曲 「おねだり」では、2小節の楽句を模倣する手法が見られ、親子の愛情関係が伝わってきます。チャイコフスキー作曲「こどものためのアルバム」 Op.39-4「ママ」も同様な楽想の曲です。
なお、模倣に近い音楽用語ではエコーや反復等ありますが、用語は心理的な違い程度で、まとめてしまっても構いません。
省略とは、本来あるべき楽節等の一部を省くことです。
「子供の集会」は、前奏+主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節Aの三部形式です。Exs-04-1は主要大楽節Aの一部です。
t.15からの中間大楽節B(Exs.04-2)の書きぶりに注目します。
左手声部で、Aの冒頭音型f(Exs.04-1 t.7参照)の反行形が使われ中間大楽節Bが開始されます。その後、音型は模倣や反復、省略が行われます。
これら一連の展開を「子供の集会」の標題を基に想像してみます。
最初(t.15)は大楽節Aに対する反対意見(fの反行形)が出され、t.16で同調意見(模倣)も出て活気づいてくるのですが、まだその勢力は強くありません。t.18で元々の意見(f音型)も加わるとにわかに混沌としてきます。t.19からは、賛成反対の意見が徐々に収れんされていき、畳み掛けるようにして再現Aの旋律に繋がっていく、というストーリーにみえます。
中間大楽節でのこどもたちのやり取りは、提案に対する反対意見があり、そのぶつかりの中で、更に高いアイデアが導き出されることを暗示しているようです。それは、そのまま作曲の過程そのものです。
ここでの書きぶりは、展開手法のひとつを示しています。提示した動機を元に、様々な角度から光を当てます。そうすると、作者の想定を超えた豊かなテクスチュアが浮かび上がってくるのです。音型を操り展開する、その過程こそが知的興奮であり、作曲家はその興奮を糧に制作を続けるのです。この興奮ぶりも演奏表現出来るとよいですね。
何度も繰り返される音型の一部を少しずつ「省略」しながら繰り返すと、独特の切迫感が生まれます。例えば、1-2-3-4|1-2-3-4|2-3-4|3-4|3-4|のように。ベートーヴェン作曲「ピアノ・ソナタ作品28田園」の第1楽章は、この方法で展開部全体が書かれています。