短い音価で休みなく続く曲を無窮動(Perpetuum mobile)といいます。リムスキー=コルサコフ作曲「熊蜂の飛行」のほかショパンの「ピアノ・ソナタ第2番」の終楽章「24のプレリュード」の中の・・・、無窮動作品はいずれも難曲ですね。
リズムの阻止とは、流れようとするリズムに対して、休符で流れを阻害することをいいます。
「心配」は主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節A+コーダの三部形式です(Exs.18-1は主要大楽節A)。特徴的な音型で曲全体が進行する無窮動音楽ですが、16分音符の音型(f)の頭に休符があるため、流れがその都度阻害され、しかもそれが積み重なって徐々に不安感が増します。この曲は無窮動とリズムの阻止を組み合わせ、心配事を抱えた心理を表した音楽と言えるでしょう。
通常の中間大楽節は半段落し主要大楽節に再現します。ところが、この曲の場合は、その部分(t.16)で完全終止しています(Exs.18-2参照。Exs.18-2は中間大楽節BからAの冒頭部まで)。
通常でない場合、なぜそうしたのか考えてみることは作品を理解する手助けになります。
通常のように中間部から再現した大楽節Aに、ドミナンテ——トニックと進行すると、解決感・安心感が生じますから、それを回避したのだと推測します。中間部から曲の終わりまでフレーズを分けず、ひたすら不安感を引きずってコーダに向かおうとしたのでしょう。
t.15からの「次第に弱く、少し緩やかに」のうち、テンポ指示(poco rall.)は心に留める程度に行い、t.17を極小のブレス(息継ぎ)で再現すると、曲全体の不安感の持続が確保され、次のコーダが生きてくるでしょう。
コーダでのユニゾンフレーズ(t.25のアウフタクトから)は、フォルテで心配を断ち切る覚悟を示しているように感じられます。