「清い流れ」は、主要大楽節A+中間大楽節B+主要大楽節A、各8小節の三部形式です。Aの左手声部は「ソ」と「レ」を弾き続けます。つまり、主音と属音を保続しています。このような保続を二重保続といいます。最強の二つの音を保続するため超安定地盤です。主音と属音による長い持続音は、しばしば田園風景を描いた作品に用いられました。この曲は、田園地帯に流れる川のせせらぎをイメージしているのでしょう。保続音で描かれた水路の上に右手の親指で旋律が、その上に三連音符でせせらぎが聞こえます。
似た楽想の音楽で、シューベルト作曲「美しき水車小屋の娘」の第二曲「どこへ」が思い出されます。
Exs.07は「清い流れ」の開始部分です。
左手の二重保続音は、全音符ですべての小節を繋げたいけど、ピアノでは音が減衰するので、この音型を選んだのでしょう。そのこともふまえて、音符ごとにごつごつした打鍵にならないよう気をつけると、小川の流れが清らかな印象になると思います。
二つの楽器が同時に鳴ったとき、片方が聞こえにくくなる現象のことを「隠蔽」と言います。ピアノで幾つかの音が同時に弾かれたときも、上声の音に下声は隠蔽されやすくなります。しかし、よく考えられた楽節では、上部に伴奏形があっても旋律が隠蔽されず、かえってソノリティ豊かな楽想を浮かび上がらせることがあります。「清い流れ」は、まさにその例です。
この曲の主旋律は、右手の親指で演奏するようになっています。親指は他の4本とは構造が違っていて独立性が高いので、旋律線が内声にあっても浮かび上がり易くなっているのですね。ピアノの奏法特性を取り入れた優れたピアニズムの曲と言えるでしょう。