チャイコフスキー「こどものためのアルバム作品39」の表現 楽曲分析と演奏表現

21. 「甘い夢」The Sorcerer

フレーズ途中に、旋律と和声の工夫で弱進行をつくり、独特の雰囲気を醸成します。

 第21曲「甘い夢」の楽節構成

三部形式

A t.1〜16

   a t.1〜8

   a' t.9〜16

B t.17〜31

   b t.17〜24

   b' t.25〜31

A t.32〜47

 主要大楽節と中間大楽節の統一と対照

一般に、主要大楽節Aと中間大楽節Bのあいだには、統一と対照が図られます。では、この作品ではどの要素が統一に寄与し、対照しているのか、という点を見ていこうと思います。

Exs.21-1と21-2は、主要大楽節Aと中間大楽節Bの最初の部分です。

甘い夢

甘い夢

主要大楽節Aと中間大楽節Bの統一要素としては、リズム形Y-1、リズム形Y-2、が共に同一であることが、全体の統一に寄与しています。

では、対照の点は、というと、

主要大楽節Aは、メロディーが上声部にあって、順次上行、その後5度下行。

中間大楽節Bは、メロディーが下声部にあって、跳躍下行、その後2度下行。

調では、

主要大楽節Aは、C-dur

中間大楽節Bは、上属調G-dur。

開始のデュナーミク、表情では、

主要大楽節Aは、弱奏、ドルチェ・カンタービレ。

中間大楽節Bは、やや強い、マルカート。

などが挙げられます。

以上、各部の統一と対照について確認して下さい。

 主要大楽節Aの醸し出す独特の雰囲気の源泉

Exs.21-3は、主旋律と冒頭8小節の和声進行を要約したものです。旋律は①と②が同じ形で③と④が同じ形になっています。

和声では、t.4からt.5への進行はドミナンテからサブドミナンテへの弱進行が見られます。②と③は、和音的な「しりとり」をしています。つまりどちらも、IIからVの和音への進行。その結果として弱進行となったのです。確かにt.4のバスG音は属和音の根音で、t.5で主音に進んでいますから、進行としては自然です。が、それは更にt.6のH音に進むアポジャトゥーラでもあります。
t.4からt.5への繋がりがこの旋律の独特の甘い雰囲気を作り出しているです。

ここでは、新鮮な気持ちで上昇する旋律①〜②を弾いた後、思い直したように内省的に③〜④を演奏してみてはいかがでしょう。

甘い夢

 

 

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▼INDEX

1. Morning Prayer
朝の祈り

2. Winter Morning
冬の朝

3. Playing Hobby-Horses
木馬に乗って

4. Mama
ママ

5. March of the Wooden Soldiers
おもちゃの兵隊

6. The Sick Doll
病気のお人形

7. The Doll's Funeral
人形のお葬式

8. Waltz
ワルツ

9. The New Doll
新しいお人形

10. Mazurka
マズルカ

11. Russian Song
ロシアの歌

12. The Accordion Player
お百姓の歌

13. Kamarinskaya
ロシアの踊り

14. Polka
ポルカ

15. Italian Song
イタリアの歌

16. Old French Song
フランスの古い歌

17. German Song
ドイツの歌

18. Neapolitan Song
ナポリの歌

19. Nanny's Story
おとぎ話

20. The Sorcerer
魔女

21. Sweet Dreams
甘い夢

22. Lark Song
ひばりの歌

23. The Organ-Grinder Sings
辻音楽師

24. In Church
教会にて