ワルツには各小節の1拍目にアクセントがあります。この曲では、作曲者が旋律の2拍目につけた「独自の抑揚」もあります。2拍目のアクセントにはどのような意味があるのでしょうか。
複合三部形式。
アインガング t.1〜2
A t.3〜34
a t.3〜10
a' t.11〜18
b t.19〜26
b' t.27〜34
B t.35〜53
A t.54〜85
Exs.08-1 は、第8曲「ワルツ」のAの最初の大楽節です。Aは各16小節の大楽節が2つありますから、ワルツ形式としてA-B-C-A-Bとみることもできますが、この曲は、複合三部形式と捉える方が各部の関係が明瞭になります。
冒頭2小節のアインガングがあり、t.3のアウフタクトから主要楽節Aが開始されます。
メロディーの2拍目にアクセント記号があります。作曲者が独自につけた抑揚で「独自の抑揚」と言います。一方、この曲は1拍目に「固有の抑揚」としてのアクセントを持つワルツですから、伴奏形とメロディーの間に、抑揚のずれが生じています。どのように考えたら良いでしょうか。
そこで、2拍目が少し長めになる拍感が特徴のウインナワルツを思い出して下さい。2拍目が少し長めになる「ノリ」を比較的簡単に演奏表現できるようにするためにチャイコフスキーは、そこにアクセントで代用したのだろうと考えられます。だとすれば、2拍目のアクセントは「強く」ではなく、回転するように動きのあるテヌートをイメージし、演奏してみてはどうでしょうか。
t.35 から始まるBは、c-moll で主音と属音を重ねた二重保続が続きます(Exs.08-2)。ここでのに重保続は調的安定を目的としたものではなく、むしろ音程を持たない、例えば小太鼓のような楽器を模し、3拍子を正確に刻むリズム伴奏です。メロディーは2拍子の抑揚で繰り返されますから、2拍子と3拍子が同時に現れている現象です。複数という意味のポリを付けて、ポリリズムと言います。
演奏では、A のエレガントな音楽と、Bの民族的、野性的、情熱的楽想の対比を生かしてください。