三部形式
A t.1〜8
a t.1〜4
a' t.5〜8
B t.9〜22
b t.9〜12
b' t.13〜18
ブリッジ・フレーズ t.19〜22
A t.23〜30
Exs.14-1 は、第14曲「ポルカ」の主要大楽節と中間大楽節に入った辺りまでです。ブリッジ・フレーズのt.19〜22を除いた旋律のすべての小節が第1小節と同じリズム形に固執しています。
中間大楽節Bでは、旋律が下声部(t.9から)に移ります。声域を変えて他者とのやり取りを描き、広がりを得ています。ここからは、装飾音符が付けられていません。装飾音がないだけで素朴な旋律に変わります。
最初の2小節を要約すると、Exs.04-2のようになります。括弧a)は、経過する複数の非和声音の集積によって得られた偶成和音です。
中間大楽節Bは(Exs.14-3)、t.9〜12をオクターブ下で逆エコー反復(t.13〜16)さらにt.15〜16の2小節を反復、さらに、t.16の2拍目の音形を使ってブリッジを作ってt.23で再現する構成になっています。つまり、旋律の枝葉を次々に切り取って徐々に細分化し、畳み掛けるようにして元に戻って行くのです。
曲の最後の小節(t.30)に注目して下さい。下声部なのにここだけ装飾音符がついています。この装飾音は、男性が、チャーミングに歌う女性をまねているのでしょう。とても愉快な装飾音です。
装飾音は、音符に記号を付けて表したもの、複数の音符に渡って付けられた記号によるもの、小音符またはスラッシュの付いた小音符によるもの——があります。
装飾音は、フレーズにアクティビティを与えたり、深い悲しみを存分に表現するための重要なスパイスです。
ここでは、装飾音符の内、短前打音に限って、ベートーヴェンのピアノ・ソナタでの使用を幾つか例示します。
Exs.14-5 。作品2-1 第1楽章コデッタ t.41 から。前打音は減7の和声構成音で、減7度跳躍します。con espressioneは表情豊かに。前打音は素早く弾く、といっても和声に埋没することは避け、旋律として表現したいです。
Exs.14-6も上記と同様な前打音です。作品13第1楽章の第2主題から。装飾音は第2主題の重要な要素で、主題と一体不可分です。この装飾音の音価のコントロール次第で主題の性格が大きく変わるでしょう。
Exs.14-7は、作品53 第1楽章第1主題の冒頭。Allegro con brio の「生き生きと」をこの装飾音符が担っています。前打音として典型的な例です。pp のまま輝きを。
Exs.14-8は、作品49-2 第1楽章第2主題の終わり部分からコデッタに繋がるところ。t.36の装飾音D音は第2主題の終止音であり、その小節からコデッタが開始されます。
前打音としては、いままでの例とは違った使われ方をしています。単なる装飾音として弾いては収まらない、とても難しい箇所です。第2楽章にも同様な音(t.28のCis音)があります。