「ママ」は、シューマンの「こどもの情景」の第4曲「おねだり」と似た書きぶりの曲です。曲は長いですが、一部形式です。
大楽節 t.1〜36
前楽節 t.1〜16
後楽節 t.17〜36
Exs.04-1 は、第4曲「ママ」の前楽節です。
t.12までは、2小節ごとに反復しています。終止以外のとこでは、幼いこどもがママの言葉を繰り返している様子です。
t.8までは、メロディーと低音とが3度音程を保っていて、バスがメロディーを支えることも作曲者の構想の基にあったことでしょう。
主調 G-dur で始まり、t.9から上属調平行調(h-moll)の微弱な終止が見られ、続けてt.13からはブリッジ・フレーズのようにみえて、最終的には属和音に進行する半終止がt.16に置かれ、t.17から後楽節に繋がっていきます。t.13からの和声進行で、t.13〜15は h-mollのII度の七の和音からD-durのII度の七の和音に進んでいます。その間のt.14などの ( I ) の和音は経過音で出来た偶成和音です。骨子は「シ」→「ミ」→「ラ」→「レ」と完全五度ずつ下行する和声進行をたどり、t.17の「ソ」に着地する、というものです。和声分析では、まず骨を見ましょう。
後楽節のt.25からは、t.9からに対応していますが、展開的です。幾つかの調を経過してt.32で完全終止します(Exs.04-2)。
t.25は最終小節に向かう始まりです。
それまで3拍子で進んでいたものが t.25で拍節が2拍子に変わりました。お話を終えて、こどもが眠りにつく準備が始まります。
t.25からの借用和音の連用は、浮遊感のある優しく柔らかい音色で、子供の背中をゆっくり「とんとん」(2拍子で)とたたいてあげるような動きをイメージして下さい。
t.29の偶成和音は和らいで、t.30の休符は眠りに落ちる瞬間のように。
t.33からも継ぎ目なく徐々に消えていくような感じで。コーダとしてフレーズを分断するのではなく、あくまで終止がエコーして延長している、と捉えてみましょう。