ショパンの和声 〜譜読みのための分析
練習曲集作品10から

 

3. 練習曲 作品10-12 ヘ短調「革命」 Etude No.12 c-moll Op.10-12

練習曲 作品10-12 ハ短調は、荒波の大海に帆船で出航する勇敢な人々の姿を想起させる、物語性あふれる曲です。 「革命」と名付けられています。
作品は、序奏部と、A-B-Aの3つの部分で構成されています。

序奏部と主部の前楽節

Exs.01-1は、10小節の序奏部と、主部Aの前半で、小楽節a(t.11〜)です。

この作品の主部は、t.11(a)のアウフタクトから開始され、それに先立つ冒頭の10小節は序奏部です。
ですが、序奏部とはいえ曲全体の核心部分です。
序奏部は、役割の違う2つの部分でできています。
一つ目は、冒頭から8小節間まるごと属和音が続き、音形m1,m2が提示される部分です。
続く2小節、t.8〜10では、主和音だけの、アインガングのような部分で、主部Aへの入り口に相当する働きをします。

t.2の3〜4拍の和音について、「ド、ミ、ラ」の各音はそれぞれ「シ、レ、ソ」の前打音(アポジャトゥーラ)です。要約したイメージを次のExs.01-2に示します。

  

t.11から主部(A=a+a')が開始され、しばらく主和音だけの楽想が続きます。序奏の長い属和音がなければ、主部の調的な安定やコントラストは乏しくなったでしょう。主旋律はm-1,2,3の音型や連打で成り立っています。

主部Aの前楽節aは、t.18で半終止し、t.19から後楽節a'
t.24で、「ファ」がナチュラルになるだけの変更(t.14との比較)によってB-durに進みます。前楽節で半音下行するバスラインに対応してt.25から上行します。t.28で上属調の平行調B-durで完全終止し、主部Aを閉じます。
短調の曲の主要大楽節が転調して終止する場合、上属調または平行調に向かうのが一般的ですが、この曲では上属調の平行調に進んでいます。新鮮ですね。
Exs.01-3に 主部Aのバスラインを要約して示します。
こうしてみると、後楽節は、前楽節を鏡に写したような形をしています。


中間部 

Exs.02-1は、主部Aの終止小節(t.28)と中間部Bの本体部分です。中間部Bはt.29からdis-mollで開始されますが、調的には不安定です。
上・下声部には、序奏部で提示された音型m-1,m-2が使われています。主部Aと中間部が同じ材料で作られているので、一体的です。

主部終わりの調はB-durで、続くt.29中間部開始はdis-moll。この接続の関係を理解しようとすると、まず、t.28の1拍目の上声部にある「レ」と下声部の「bレ」のぶつかりから、気になります。
そこで、Exs.02-2のように、dis-mollの異名同音調に書き換えて要約してみました。t.28は、次の成り行きを考えて、es-mollのドミナンテとすると、その上声部の「レ」は、和声的短音階の導音、下声部「bレ」は旋律的短音階の下行形ですし、t28から29への和声進行は属和音から下属和音への弱進行だとわかります。
弱進行なので和声の機能的連鎖が絶たれた感じで中間部に突入します。その結果t.29はgis-moll(as-moll)の主和音と認識するかもしれません。いずれにせよ、この繋がりは主調からみれば突然転調で、その後の転調経過も不確定なまま次の再現準備に入っていくのですが、弱進行や2度下がりゼクエンツの効果は、ここでは、一瞬の静寂を感じさせ、主要部からの離脱を一層際立たせます。

この曲の再現は属和音の序奏部に戻って行くため、再現準備のブリッジ・フレーズ(t.37〜40の4小節)はサブドミナンテになっています。

序奏部から再現Aと結尾

t.41〜40は、序奏部の再現。

t.51〜77主部Aの再現。

t.77から結尾。結尾は、C-durで、主部Aの動機を回想する形で、変格終止を3度繰り返します。

ショパンの和声
▼INDEX
はじめに
1. 練習曲 作品10-3  ホ長調 Chopin/Etude E-dur Op10-3
2. 練習曲 作品10-9  ヘ短調 Chopin/Etude f-moll Op10-9
3. 練習曲 作品10-12 ハ短調 Chopin/Etude c-moll Op10-12